[所在地]広島県尾道市瀬戸田町林

 発見は昭和16年と言われ,タングステンを採掘していた鉱山である。鉱床は黒雲母花崗岩中の高温の熱水鉱脈鉱床であり,一部に母岩がグライゼン化作用を受けている部分が見られる。風景写真の崖地は採土場の跡である。鉱山はこの北側及び西側にあり,選鉱場と思われる施設跡,ズリ,坑口,閉塞された坑口が残っている。ただ閉塞された坑口と施設跡は夏は藪と化してしまう。鉱床の東側は銅を多く含んでいたようで,東側のズリや採土場には銅鉱物が多く見られる。採土場には銅の鉱脈の延長が露出している。施設跡の表土を少し掘り返してみると鉄重石,黄銅鉱,斑銅鉱が見られた。東側のズリでは,先の鉱物の他,赤銅鉱,輝銅鉱,孔雀石,藍銅鉱,ブロシャン銅鉱などの各種銅鉱物やラッセル石が見られた。また銅が多く密集した濃い緑色部分には自然銀も見られた。脈石鉱物は石英を主とし緑泥石,葉蝋石,一部にトパズも見られる。採土場では砒素が多く金属鉱物では黄銅鉱,安四面銅鉱の他に粗粒状の硫砒鉄鉱が多く含まれており,その砒素の影響によりオリーブ銅鉱,斜開銅鉱,アガード石-Y,コーンウォール石,コルヌビア石,パルノー石,スコロド石,毒鉄鉱などの砒酸塩鉱物が見られる。ことに斜開銅鉱とアガード石-Yはしばしば目にすることができる。他にもコベリン,錫石,亜鉛スピネル,鉄スピネル,満礬ザクロ石,モンモリロン石,カオリン,珪孔雀石などが見られる。採土場にはグライゼン化した母岩が多く転がっている。他にもアントレー石が産出するとされ,肉眼鑑定では分からない不明な鉱物も多い。県道を挟んだ西側のズリは長石が多く含まれるが目立った鉱物は見られない。
 
なお,付近はイノシシが多く,冬にはそれを追うハンターが付近にいる場合があるので存在を知らせるなどし,注意する必要がある。また,採土場は平成28年後半から残土処分地として開発工事されており立入禁止になっている。工事により露頭も削られズリ石のほとんどが開発地に埋められたため産地としては一部を除いてほぼ消滅した。