［理想化学式］　Ａｇ３ＳｂＳ３ 　銀とアンチモンの硫化鉱物である。色は名前のとおり濃紅色であるが，空気中では次第に暗くなり黒色になってしまう。三方晶系である。ギリシア語の火と銀色が名前の由来だそうだ。日本では栃木県の西沢鉱山が有名だが，日本各地に産出する。一般的に金と共生することが多いが，他にも淡紅銀鉱，黄鉄鉱，閃亜鉛鉱などと共生する。針銀鉱とは共生しないとされている。甲山鉱山では濃紅銀鉱は主要な銀鉱石であったようだ。拡大写真では暗い灰色部分が本鉱である。いわゆる銀黒となっている。銀黒の長さは２ｃｍ，幅は３ｍｍぐらいである。現地ではこうした銀黒はほとんど見られず，石英中に微細な銀黒色の点のものが多い。甲山鉱山の坑口の前の転石や坑口からやや離れた所に小さいながらもズリがある。こうした所にある緻密な石英中で見出すことができるが，微細であるため実際現場での確認はやや難しい。こうした非常に緻密な石英中にある黒色の点または筋状のものは銀黒と考えて良いようである。しかし，この鉱山では「広島県大百科事典＜上巻＞」という文献によると濃紅銀鉱の他にナウマン鉱，脆銀鉱，針銀鉱なども産出していたため銀黒＝濃紅銀鉱ではないようだ。なお，この標本は通路近くの斜面から見つけたもので運搬途中に転げ落ちてそのままになっていたものと思われる。発見時は表面が土で汚れていたがはっきり銀黒が分かるような状態だった。顕微鏡写真では結晶は確認できないが一面鋼灰色を成している。一部に金色の粒も認められ全体で３０〜４０粒の自然金を伴っていた。ＥＤＳ分析を行った結果，銀とアンチモンと硫黄，セレンが検出され，銀とアンチモンと硫黄＋セレンの構成元素比率（At％）がおおむね３：１：３になっていることから濃紅銀鉱と同定した。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ＭＥＮＵページに戻る　　　前のページに戻る